藤本壮介展 山のような建築 雲のような建築 森のような建築―建築と東京の未来を考える2010―

hujimotosou

  • 場所 ワタリウム美術館
  • 会期 2010.8.14~2011.1.16/11:00~19:00(月曜日休館)
  • 入場料 一般1000円 大学生800円 (ペア券もあり。期間中何度も使えるパスポート制)

ワタリウム美術館は初めて。
過去の展覧会をHPで見ると、興味を惹かれるものが結構あって、
もっと早く行っておけば良かったと後悔…


ワタリウム美術館はスイスの建築家
マリオ・ボッタによるもの。
敷地が変形でしかもとても狭いので、
各フロアは、EVコアによる凸部をのぞけば
ワンルームに近い状態。
さらに、断面的に吹き抜けや高い天井を
つくって狭さを解消している。
1階の店舗から地下1階のカフェに降りていく階段は
谷のようで面白い。


ヘタ部分の屋外からは交差点を望むことが出来て、
喫煙所になっている。
1人分くらいのスペースだけど、
タバコでも吸いながら本でも読みたくなるようなスペース。


で、肝心の展覧会の内容について。
2〜4階が展示スペースで、各フロアで、模型の縮尺が違う。
 2階:1/1のインスタレーション 
 3階:1/500くらいから1/20くらいの模型 
 4階:1/150の巨大な都市の模型
各フロアでコンセプトが違うという構成は
スタンダードだけど驚きがあって中だるみしない。


インスタレーションは不完全燃焼といった感じ。
物体が浮き立ちすぎて、見てる分には楽しいけれど、
ちょっと、空間というほどの働きかけがあったようには思えなかった。


3階のドローイングやら模型やらが林立したところは、
密度が高く、楽しかった。
模型にヒラリとついた短冊状の簡潔なキャプションも良い。
デザインの展覧会のいいところは、アートと違って
ものの成り立ちのプロセス、思考の流れを追体験できるところ。


4階は臨場感があって良かった。
ただ、焦点がだんだん近くなっていったときのダイナミックな感覚をもっと感じたかった。
細部のつくりこみが少なかったのが原因かもしれない。


藤本氏の、建築における新しい言語創出の試みは、
荒唐無稽のようだけれど、刺激的。
地域的な文化における価値基準をすべてフラットにするようなその姿勢は、
いまの社会と関係している部分はあるのだろうか。
「遺跡みたいにのこっていく建築」ならやっぱり石かRCがいい気がする。
物理的に遺すことが重要な気がするんだけれど、どうなんだろ。

佐藤雅彦ディレクション「これも自分と認めざるをえない」展

koremojibun

  • 場所 21_21 DESIGN SIGHT(東京ミッドタウン内)
  • 会期 2010.7.29~2010.11.3/11:00~20:00(火曜日休館)
  • 入場料 一般1000円 大学生800円 中高生500円 小学生以下無料

大好きな佐藤雅彦の展覧会。
行ったのは日曜日で、すごい混み具合で、
5分間の作品を鑑賞するために40分〜1時間待ったり、
機器の故障でスタッフさんの対応が
遅れてしまったりしたのがすこし残念でした。


でも、コンテンツはやっぱり良かった。


まず、タイトルがタイトルっぽくない。
理屈っぽい感じで、
でもそれをコミカルに捉えている様でもあって、
なんだか現代的で面白い。


入場してすぐ、
名前やら身長やら虹彩やらを調べ上げられる。
それをベースに、健康診断の様に
「自分がどのような属性に属しているか」を
テストする様な参加型インスタレーション


佐藤雅彦の作品には、「日常に潜むシステムの発見」がある。
なぞなぞをつくる様なイメージに近い気がする。
あるなしクイズとか。


個人的な感情や思い入れに頼らずに、
システムを発見してそれを利用することで
新しいコミュニケーションを生み出す。
完結した、独立性の強い物語よりも、
ある前提を利用して一瞬で伝えるこの感じは
彼が広告代理店に勤めていたことと
無関係ではないだろう。


今回はそれに「参加型」実験の要素を入れ込み、
結果がひとりひとり異なることで
展覧会に行った人同士で結果を話し合えるような
二次的作用も期待できる、よくできた
展覧会だなーと思いました。


とくに、ものをつくる人なんかは、
こーゆうの大好きなんじゃないか。


一番面白かったのは「指紋の池」。
個別性と匿名性が混じり合う瞬間の
ふわっとした感覚が、
この展覧会の特徴をよく示している。
ビジュアルも綺麗。
行ってみて、体験してみないとわからないこの感覚。
11月3日までなのでお早めに。
(平日午前中の方がいいかも)

借りぐらしのアリエッティ

アリエッティ

久しぶりに記事を投稿。
貧乏性だからなのか、自分が何かの表現を見た時に
感じたことを、あとあと思い出したくなってしまう。


で、久しぶりにジブリ作品をスクリーンで鑑賞。
映画館で観て良かったな、とまず思えたのは
音の臨場感。
今作は主人公のサイズが小さく、
耳への響き方が違うことでその小ささを体感できた。


ほかにも、水滴がスピラ(小人)達にとっては大きく
球形に描かれていたり、ビスケットを砕いて食材にしたり、
鉛筆のキャップを花瓶にしたりという
リアリティはわくわくして観ることが出来ました。
父親と一緒に「借り」に出かけるシーンでの
父親の手際の良さもすごく気持ちいい。


ただ、「人間に見つかってはいけない」
秘密の存在であるにも関わらず
目立つ赤の服装を着て庭に出たり、
部屋の内装がやけに人間の文化に寄り過ぎたりするのは
なんだか、登場人物への奥行きがないように
感じてしまって少し残念。
小人という特殊な設定が持つ、
人間とは異なる文化や仕草をもっと観たかった。


いままでのジブリ作品の傾向とは異なる、
世界を動かしている思想へのメッセージを抑えたような、
ささやかな作品という方向性なのであれば、
そこでもっとわくわくしたかった。


それを踏まえて、
スピラという存在の儚さとそれに対する
主人公アリエッティの抵抗はもう少し描いても
良かったんじゃないかと思いました。


最後は「あれ?これで終わり?」という
肩透かしを食らった感じがあって。


ただ、最後のエンドロールの川を下って行くシーンで、
スピラが不安と儚さを感じつつも、
新しい地で生きていく希望と自由さを感じられて
良かったです。

西沢立衛対談集

kta6662009-11-06

日本を代表する建築家の一人、西沢立衛
様々な建築家と対談した企画。


対談する相手の建築家がそれぞれ有名な人たちで、
いろんなところで自分の建築観を語っているので、
目新しい話は少ない。
でも、対談なので相手がその話をどう返すか、
どんな話につながるのか、
相手はその価値観と同調しているのかずれているのか、
それが面白い。
穏やかに見える会話の中に、
それぞれの建築家の思いがぶつかり合う。


西沢立衛は物腰が柔らかで、偏りがない。
昔から彼の文章を読んで感じる印象は
「当たり前のことを言う人だな」という感じ。
それは悪い意味ではなくて、
「みんな感じているけれど誰も意識していないこと」を
掬い上げて喋っているという意味で、
それが自然にできている人である。
あまりに自然で、聞いているだけだと
当たり前すぎて大事なことのように感じないときもあるけれど、
たぶん、自分が喋るときはこんなに
ニュートラルじゃないだろう、と思う。


思い入れや先入観を一度とっぱらって、
浮き上がってきた感覚をつかみ取る。
デザイナーというのは
この「偏りのなさ」が重要な気がしている。


建築家同士の対談なのに
皆ところどころで建築と関係ない話をします。
その内容が不意に建築の話に結びつく。
これが「体験から表現する」という
デザイナーが備えている習慣のように感じられて、
これが無意識にできることもまた
重要な気がしました。

グッドデザインカンパニーの仕事1998-2008

kta6662009-10-09

僕の大好きなラーメンズ
アートディレクションも手がけている
グッドデザインカンパニー(gdc)による、
10年間の仕事をまとめたセルフレビュー。
「よいデザインを生み出す会社」という直球の名前。
デザインに個人的な趣味や恣意性を持たせないという
強い姿勢を感じる。


表紙はとてもシンプル。
光沢のある白に明朝体に近いフォント。
レビューの項目の中にフォントと文字組がある。
ひとつひとつの文字の大きさや間隔を調整しているのを
初めて知りました。
掲載するコピーのバランスを一文字ずつ考えてゆくような、
グラフィックデザイナーしか持っていない鍛えられた眼。
これが門外漢としては新鮮でした。


水野学を含め、深澤直人とか吉岡徳仁とか原研哉とか、
人気のデザイナーの商品にはみな
「シンプル」というコピーがついていたりする。
(ケータイ屋で、新しくデザインされた携帯電話の横のPOPに
「シンプルイズベスト!」とか書いてあったりして)
でも、同じシンプルでも注意深く見るとちょっとずつ違う。
おそらく、それはデザイナーの考え方の違いにある。


書かれている文章も整理されていて、とてもわかりやすい。
アートディレクションとデザインの項目に分かれていて、
それらのヴィジュアルの羅列とそれらについての説明文を読むと
シンプルな中にgdcの考え方がぼんやりと見えてくる。
検討最中のスケッチや撮影風景が載っているのも楽しい。

オールド・ボーイ

kta6662009-09-25

思い返すと、韓国映画を初めて見た気がする。
クエンティン・タランティーノに絶賛された映画として有名。
第57回カンヌ映画祭審査員特別グランプリ受賞。
流血シーンなどショッキングな映像も多い。
原作は土屋ガロン嶺岸信明による同名の漫画。


※基本的にはサスペンスアクションなので、
 ストーリーを知ってしまうと面白さは半減します。
 この記事はネタバレを含めて書いていくので注意。


暴力的なシーンの連続が多い割に
シナリオや脚本、演出まで繊細によく練り込まれた映画。
あまりに壮絶なのでちょっと暑苦しさも感じるけれど。
キャラクターも個性があって面白い。


韓国に行ったことはないけれど、
ブレードランナー攻殻機動隊にでてくるような
街の煩雑な感じと閉塞感をロケで描いたのがいい。
それと対照的な、ヒキの視点で取った
回想シーンも緊張感があっていいです。


敵の額に振り下ろされる金槌の軌道が
矢印で書かれるシーンは
アジア特有のセンスを感じて面白い。


唯一納得がいかないのは、敵役イ・ウジンの本性。
オ・デスに追いかけられながら追い詰めてゆく
イ・ウジンの戦略はなかなか考えられていて、
終盤までとてもかっこよくできてたのに、
最後の演出が少し過剰で、感傷的な弱い男に見えてしまった。
韓国の儒教の文化背景を知ってから見れば
また印象は違ったかもしれない。
前半の登場がかっこよかっただけに残念。
オフィスビルの内観が少しダサイのも残念。


とはいうものの、全体的に見れば
間違いなく傑作。
バイオレンスな表現に
抵抗のない人には、オススメです。

夢で会いましょう

kta6662009-09-18

村上春樹糸井重里の競作。
この組み合わせもなかなかお目にかかれないなと
思っていたら、この企画は
1980年頃に行われたものだった。
おそらく2人とも世の中にその才能を遺憾なく
発表し、ノリにノリ出したくらいの時期。


カタカナで始まる言葉をタイトルに、
それぞれが数行から2~3ページでおわる短い小説を書く。
お互いのやりとりは特になく、
大体半分ずつ書いている。
「ア」から始まり「ワ」まで101篇収録されている。
お互いの小説につながりはないので
適当にページを開いたところから読める。
しばらく経ってからまた一部を読み返しても良い感じ。


こういう短い小篇は、
やはり大きな展開ではなくて、
情景や場面を切り取ったものになりやすい。


村上春樹の書くものは、「象がハイヒールを履いて
自分は象の世界では人気があるのだ」なんていうような、
ちょっと狐につままれたような印象のものが多い。
でも、それに多くの示唆を含んでいるわけじゃなくて、
適度にライトで読みやすい。
彼の他の作品より少し直球で皮肉っぽい印象があって、
なんだか糸井の影響を
すこし受けたんじゃないかなんて勘ぐってみたり。


それに対して糸井重里は、
世の中を斜めに見るというかいつも通りな感じ。
いままでなんてことなく見過ごしてたけれど
言われてみると確かに変よねって
相槌を打っちゃうような鋭い切り口。


個人的に好きだったのは
アイゼンハワー」「コーヒー」「ゼロックス」。
5年後に読んだらまた変わるかもしれない。


こういう類の本は
常に1冊手許にあるといいかも。
気分転換、思考転回、寝る前などにも
服用できます。