美しい都市・醜い都市 ― 現代景観論

kta6662008-05-08

建築史家、建築評論家として
雑誌や講演会、対談などひっぱりだこの
五十嵐太郎の現代都市景観論。
近年の雑誌に掲載された文章を再編成したもの。
多くは最近最終号が刊行された『10+1』から。


まず、五十嵐は
内閣の都市再生戦略チームの座長を務める伊藤滋
設立した「美しい景観をつくる会」を辛辣に批判する。
町に散在する看板建築や電柱、高速の高架を
「悪い景観100景」としてネット上に挙げたこの会に対して、
「そもそも美とは相対的なものである」として
サイバーパンクのSFアニメなどを引き合いに出して
今の都市の風景を再評価して反論するあたり、なんとも彼らしい。


五十嵐太郎の強みは、
議題に関連した古今東西の事例や言説を
瞬時に俎上にのせられることだ。
この本でも、ジョン・アーリからアニメ映画「イノセンス」まで
参照事例は幅広い。
それらひとつひとつの点を
本題に縫い合わせるようにして理論を展開していく。
規制された平壌の風景と、
日本の混沌とした風景の対比は興味深かった。


啓蒙的な発言を控えた、都市景観に自覚的になるような
問題提起としての立場をとった一冊。


しかし、
彼の言う通り、美醜の基準は相対的なのだけれど
そこからの能動的な展開が見たかった。
看板建築だって魅力的に見えたりそうでなかったりする。
では魅力的に見える瞬間とはどんな時だろうか。
そこに美醜の基準が隠れているかもしれない。
「美醜」が単なる「好き嫌い」と違うのは
相対を超えたある普遍性があるからではないのだろうか。